9/20/2009

第三の構造による建築様式



構成する材が互い違いに組み合うことで成り立つ相互依存形式による構造は、材を単に接合するフレーム構造や積み上げることで成り立つ従来の構造とは区別する意味合いから、第三の構造という。
多様な空間構成の可能性に加え、組み立ての容易さや幅広い構成材料の可能性等の点で、緊急時や非常時の空間構造として注目されている。
典型的な特徴は,短期間に中空状の空間を設けることが可能なことである。さらに、その構造が柔軟でしなやかなことから、地震等の振動や衝撃に対して強度があり、従来のフレーム構造に勝る経済的な利点がある。
その原初的発想は、すでに中世ルネサンス時代のダ・ヴィンチ・グリットが端的に示している。しかもそれ以前より世界の広範囲で使用されてきたという。だが今日に至るまで、それは建築様式を生み出すほどには高められてはこなかった。それには幾何学的な進化を伴う必要があったからである。
第三の構造が注目され研究され始めたのは比較的新しく、ようやく20世紀末になってからであった。
今世紀に入り、この構造によってドーム型構築物を形成する研究がなされ、マルチ・レシプロカル・グリット・システム(The multi-reciprocal grid system)*1として発表されている。連結する平面パターンを湾曲させて立体を形成する。


第三の構造

第三の構造とは、相互依存形式の構造で、幾何学的には多軸体といいます。これに正多面体の規則性を与えることで正多軸体となります。
それ以外は、平面や曲面パターンの広がりに過ぎませんが、それらも第三の構造の範疇に入るでしょう。
個人的には、その上位概念においてテンセグリティーまで含めても良いかと思います。
なぜなら、歴史的にテンセグリティーの存在は多軸体の展開に導く移行期に当るからです。


この多軸体を設計するに規則性とシステムを導入する必要があります。
その一つの方法には、ジーン幾何学と融合させる方法です。
構造の中核にゾーン多面体を内包することで、ゾーン幾何学の性質を取り込み、立体が備えている最大限の変容能力を発揮することになります。
さらに、その構成要素である軸材を線材に変容させることで、テンセグリティーとなる他、格子空間を充填するまで軸材を変容させることで、ドーム型の構造物へと技術転換できます。


また同時期、この構造はプラトン立体に準じて構成することができることから、幾何学的には多軸体*2と命名されている。しかし建築への更なる適用には形態の変容システムを組み込む必要があった。 
球面幾何学と対極に位置するゾーン幾何学、それは単一の形態にとどまるジオデシック理論と異なり、驚くほど多様な形態を派生する。
このゾーン幾何学の派生形態であるゾーン多面体は、先の多軸体と結びつくことで、両者の特質が融合し、新たな形態と形成システムを有することになる。それがゾーン多軸体というものである。 
この種の構造、すなわち多軸体を中心とした相互依存形式による構造は、材を単に接合するフレーム構造や積み上げることで成り立つ、従来の構造とは区別する意味合いにより、第三の構造という。
その中でゾーン多軸体は、中空状の構造物を形成し、さらにその軸形状に変容を施すことで、恒久的な構築物への適用が見い出された。
この先紹介する構造物は、その幾重もの幾何変容による一例であり、その変容過程において私個人の恣意は一切介入されていない。
建築が構造そのものから装飾や有機的な造形を形成することが可能であり、それが様式美となることを示していきたい。


参考文献*1

[1] O.Baverel and M.Saidani,
{Retractable multi-reciprocal grid structure}
Journal of the International Association for Shell and Spatial
Structures.Vol.39.n.128,pp.141-146,1998
[2] O.Baverel and M.Saidani,
{The multi-reciprocal grid system} .
Journal of the International Association for Shell and Spatial
Structures.Vol.40.n.129,pp.33-41,1999.
[3] J.P.Rizzuto , M.Saidani and J.C.Chilton
{The self-supportng multi-reciprocal grid (MRG)}
Journal of the International Association for Shell and Spatial
Structures.Vol.41.n.133,pp.125-130,2000


参考文献*2

OKA Reachlaw , KAWAMOTO Masako , NAGATA Shojirou
形の科学会誌 = Bulletin of the Society for Science on Form 22(2), 199-200 ,20071101
OKA Reachlaw , KAWAMOTO Masako
FORMA 22(1), 93-102 ,20070601
OKA Reachlaw , KAWAMOTO Masako
形の科学会誌 = Bulletin of the Society for Science on Form 20(1), 112-113 ,20050601
OKA Reachlaw , KAWAMOTO Masako
形の科学会誌 = Bulletin of the Society for Science on Form 19(2), 258-259 ,20041101

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