3/30/2010

ジオデシック理論

テンセグリティーの変容を追うことで、軸組み構造という新たな展開となりました。
これからは、テンセグリティーに関する記述から離れますが、所々でまた触れるかと思います。

ところで、テンセグリティーの項ではジオデシック理論についてはほとんど記述しなかったので、ここで私なりに見解を付け加えておきたいと思います。

バックミンスター フラーのジオデシック理論
ジオデシック理論とは、幾何学的には球面をプラトン立体の規則性によって分割し、さらにそれを三角形に細分割するところにある、単純なアイデアです。 フラーは、主にこの2つの幾何を用いているのみでした。
端的に言えば、初歩的なプラトン立体を基軸にした別名、神聖幾何を球面に転写したパターンです。

あの、古典幾何学者コクセターに言わせると、フラーほとんど幾何学については初歩的な知識しか身につけていなかったそうです。 そのため、テンセグリティーの解析にまでは至らなかったのでしょう。むしろライバルのスネルソンの方が幾何学的解析能力には長けていたようです。 フラーはむしろ単純なアイデアを膨らませる能力には長けていたようです。

 
ちなみに、ジオデシック理論やジオデシックドームはフラーの発明ではありません。1922年ドイツ人のウォルター・バウアーフェルトがイエナのカール・ツァイス社の屋上にジオデシックドームを建設しています(左の写真)。
フラーは1950年代になって初めて特許を取得しています。

その右の写真は、フラーとジョージ・サダオによるモントリオールEXPO1967アメリカ館です。
私個人としては、フラーのアイデアを膨らませる能力については学べきことが多いと思っています。
しかし、フラードームに関しては、構造的に決して効率が良いとはいえないので。現在ほとんど興味の対象外となっています。
重力以外、多方向から荷重がかかる条件下では最大に力を発揮するものだと思います。

球形はどうしても横圧力が側面にかかり、サイドの構造をかなり補強しないと持たないものです。あのローマのパルテノンほどではないにしても、EXPO1967のアメリカ館はかなり見えない箇所で骨材の肉厚を調整しているそうです。

この点、無理に球形にこだわらなくても良いのではないかと思います。デザイン的には単一の形態以外の何ものでもないので、自由度が低い点どうしてもこれにこだわる理由が薄れてきます。
その点、効率云々でいうなら、私はむしろアントニオガウディーの主張するフニクラ構造の方に惹かれます。

後に続く軸組みの構造でもこのジオデシック理論について若干触れる予定です。

3/19/2010

テンセグリティー その7

テンセグリティーからの脱皮 
前回、テンセグリティーの変容を断片的に取り出しました。
できれば、その変容する過程をアニメーションで示すことができれば理想的です。
そうすれば、テンセグイティーの無限大に循環する過程が視覚的に理解できます。

しかし、私にはそんなスキルはないため、その一連の変容を絵図で用意しました。
イギリスで構造を研究しているオリバー・ヴァベレル氏の論文からです。
文献は2007年「Nexus Network Jounal]の281ページから298ページです。

タイトルのNexoradesとは、軸組みの構造の古い呼び名だそうです。
ここでは、今のところ混乱を避けるためその呼び名はとどめ、単に軸組み構造としておきましょう。
そのヴァヴェレル氏が、プラトン立体の双対関係における変容を軸組み構造で示しています。

研究の内容は1997年ですからかなり以前となります。既にこのころから、”100匹目のサル”にたとえられますが、各所で類似した内容が出始めています。
私の情報では、やはり欧米の方がこの手の研究は進んでいます。

さて、注目すべき一連の図で、最初に出ているのは289ページの図20~図28です
全部で9図あり、最初の図20が正20面体を示していることは明確かと思います。それぞれの頂点は軸が回転してずれており、中心に空間があります。
変容は徐々にその軸を太くすることで頂点にあたる三角形の空間が広がっていきます。
それに対し、五角形の大きな空間は逆に小さくなっていきます。
この場合軸は太くはなっていきますが、見やすくするためその長さは省略してあります。




図25では、既に三角形の空間が五角形の空間を押し縮めています。
この時点で図の大きさは同じですが、その軸はかなり太くなっており、全体の大きさは相対的にかなり大きくなります。
逆に、軸の太さを一定の設定にした場合、全体の大きさは相対的にかなり小さくなります。

後者の方がより自然に感じます。別の言い方をすれば、図20の時点で軸が互いに中心に向って回転しながらずれていくので、全体は徐々に小さくなっていくのです。
ここでは取り合えず、先の設定で話を進めましょう。

図25の時点で軸の太さは限界に達します。これ以上軸を太くしても同じ構成となります。
ちょうど五角形と三角形の空間がつり合っているからです。
変容のニュートラルな状態です。


三角形をより大きくするには、この時点からは軸を細くしていきます。
図26になると正20面体が見えてきます。そして最後の図28でほぼ完全にフレームワークの正20面体となります。

このまま軸を限りなく細くしていくことで、ユークリッド幾何の世界に入っていきます。
そこでは三角形が限りなく平面で、頂点は限りなく点に至っています。
しかし、この軸組み構造の発想の下では、三角形の空間や頂点の微小な空間はねじれ、回転しているのです。

現実の空間と言っても、量子の世界においては、このような空間に近いのではないかと直感的に思うのです。まさか平面のように思われる空間が真平らであることは自然界にはありえないからです。

残りの2つの双対関係にある立体も、この軸組み構造の下、互いに変容することが後の図で示されています。正四面体は、それ自身上下逆さになることで双対を繰り返しています。

次回、テンセグリティーを離れ、この軸組み構造に入っていきましょう。
かなり広範囲に及ぶため、できれば最初の段階で具体的な方向を示すことができれば良いかと考えています。




3/13/2010

テンセグリティー その6

テンセグリティーの変容
テンセグリティーの細い圧縮材と張力材からなる形態をおもいきって変化させてみましょう。
そうすることで別の側面が見えてきます。

これは、非ユークリッド幾何への入り口だと思います。
この幾何学は、現時点で、その名のとおり非日常的空間と、思っていただいてかまいません。
しかしこの空間意識は、ユークリッド幾何のそれより、より自然に近い解釈だといえます。
その点は別の機会にお話しましょう。

変容のもっとも典型的な例から示していきましょう。
前々回扱ったテンセグティーのモデルです。
単純な方から行きます。

プラトン立体の正4面体が変化する中間に位置するテンセグリティー。
そしてその下の図は、その圧縮材をかなり太くしていった形態です。
張力材はまったく無視します。ここでは空間のイメージを優先しましょう。


テンセグリティーが転がって写っているため、その変容した形態との位置が若干ずれ、各要素の構成がつかみにくいかと思います。

次は、正6面体と正8面体とが互いにかたちを入れ代わる中間に位置するテンセグリティー、
そしてその圧縮材を太くしていった例です。


これも若干位置がずれていますが、同調するところを見つけるのは平行する3本の圧縮材です。
やはり、同じ位置で写っている写真を用意すべきでした。
しかし、何とか同調している様子が把握できればと思います。

最後は、正12と正20面体の双対関係の中間に位置するパターンです。


これも同調を判断するポイントがあり、平行に位置する5本の圧縮材を見定めます。

以上、基本を示してきましたが、その中でポイントとなる点がありました。
それは平行に位置する圧縮材です。
それぞれ本数が異なり上から2本、3本、5本となっています。
お気付きの方もいるかと思いますが、他の構成材も同様に平行の構成に組み込まれています。
これが変容のちょうど中間に位置する目印となります。

次回、この変容をより具体的に見ていきましょう。
一連の変容を示した文献があり、参考になるかと思います。
この研究は、すでに前世紀の末に始められたので、私の情報では比較的新し方です。

この一連の変容によってプラトン立体の本来の形態が見えてくることになります。
それによってユークリット幾何の限界が目に見えるかたちで認識されるものと察します。
ひいては、それが皆さんにとって、空間の非日常的な認識へと至る入り口になればと願っています。

3/03/2010

テンセグリティー その5

テンセグリィーのゆらぎ

下の図は、プラトン立体の双対関係を示しています。ユークリッド幾何学では、ここで示された相対する立体は2つに明確に分かれています。
しかし、テンセグリティーによって形作られた相対する立体は、その変容過程の両極に位置しています。

そして、前回示したテンセグリティーのモデルはその変容過程のちょうど中間に位置しています。
この図では、その変容過程を無限大の流れで示しています。
前回提示したテンセグイティーモデルが、相対する2つのプラトン立体の間の中間に位置しているとは言っても、その前後を提示しなければ、それをイメージするのは困難です。

もちろん、そのモデルを提示することはできるでしょう。
しかし、テンセグリティーの軸は、軽量化のため細く、軸が多いと複雑に見え、さらに理解に苦しみます。
また、線材と軸材の長さによってその形が変化するため、ゆらぎの変化が読み取りにくくなっています。

そのためここでは、皆さんにその軸をかなり太く変化させた形態を提示し、新たな取り組みを行なってみようと思います。
それによって、このゆらぎを思考で感じることができれと思います。
その形態とは、テンセグリティーを進展させた軸体、もしくは多軸体といわれるものです。


テンセグリティーの進展

これからお話していく軸体・多軸体とは、広くは軸状の材による構成をいい。多面体に対応することのできるものを多軸体といいます。
この多軸体を命名された方は、岡 利一郎 (OKA Reachlaw)と川本 昌子( KAWAMOTO Masako)の両氏です。


また軸体カテゴリーに入るものは、テンセグリティーはもちろん、マルチ・レシプロカル・グリット(multi-reciprocal grid)やダヴィンチ・グリッド等がありますが、今後必要に応じて取り上げていきたいと思います。より詳しくは、私のウェブサイトをご覧ください。

なお、この軸体はユークリッド幾何学とは相容れない点があるため非ユークリッド幾何学のカテゴリーに入るといっても良いでしょう。

次回、具体的な変容の過程を多軸体の模型を参考に示していきたいと思います。



3/01/2010

テンセグリティー その4

テンセグリティーとプラトン立体



プラトン立体(正多面体)は、一見単純そうに見えるのですが、
奥が深く、派生する立体を理解し、本質的に使いこなすにはかなり年季がいるものです。
またこの立体の幾何学的考察は、自然科学や芸術、はては精神世界の分野にまで登場し、神聖幾何学という名称を付けられています。

では、一旦前回説明した領域に立ち戻ってみましょう。
テンセグリティーをこのプラトン立体で掘り下げてみようと思います。
そうすることで、ある規則性が現われ、その規則性が他の要素と結びつくところまで展開できればと考えています。
これによって新たなデザインの領域が見えてくることを望んでいます。

プラトン立体は5つありますが、それはユークリッド幾何の見方によるものです。
テンセグリティーはの見方によれば、プラトン立体は実際、三つに集約されます。その点は段階を踏んで触れることにしましょう。

とりわけ現時点では大切な目標をを絞っていこうと考えています。
それは、テンセグリティーによってユークリッド幾何学の呪縛から開放されることです。


最初のテンセグリティーは軸材が6本によるものです。
前々回でも扱いましたが正4面体に対応するものです。
これはいたって簡単に識別できます。正4面体をなす辺は6本です。
その辺を軸材にして、空間上を互いにずらしていけばこのような軸の構成となり、現実的に見せようとすれば針材で相互に結びつける事でこのようなテンセグリティーとなります。




次は軸材が12本からなるものです。正6面体もしくは正8面体に対応するものといわれています。
正6面体をなす辺は12本、先と同様に辺を抽出して空間上で回転するようにずらしていけばこのようなテンセグリティーとなります。
しかし正8面体をなす辺も12本で、同様にずらしていくとこのよなテンセグリティーになります。
もちろんその際に、線材の長さはそのつど変化します。



ここでプラトン立体の双対関係をご存知の方ならば、おおよそ直感で気付いたかも知れません。
テンセグリティーは、双対関係にある2つの立体の間に無数に存在しているゆらぎのような状態です。

3番目の軸材30本からなるテンセグリティーも同様です。
正12面体正20面体の間を行ったり来たりする状態を示しています。



5角形を形成する空間を可能な限り広げることで正12面体に近づき、逆に5角形を限りなく小さくすることで正20面体に近づきます。



最初に示した正4面体は自分自身で双対関係にあります。
ピラミッドの上下をひっくり返した2つの体がよくその図で示されていますが、何か神聖幾何学でいうところのメタトロンとかいう状態を示しています。


テンセグリティーの出現まで、プラトン立体には示すことのできない形が長い間封印されてきたといってもよいでしょう。
この点は、ユークリッド幾何学の限界が露出しており、時代が徐々に本質的な形態の探究に向ってきた現われだと思います。 私が学生のころ(1980年代初頭)はまだ、テンセグリティーの存在を知りませんでしたが、彫刻を学んでいたこともあって、ロシア構成主義のナウム・ガボあたりにかなり影響を受けました。

この人の作品には、かなりユークリッド幾何に対して戦いを挑んできた跡がうかがえます。非ユークリッド幾何学の誕生したお国がらでしょうか。


余談になりましたが、次回は本日述べた”ゆらぎ”を追っていこうと思います。
その中での重要な位置があり、それを示していこうと思います。
その位置が、テンセグリティーのまた別の展開を見せることになります。