入念に「たたき締める」施工法
人造石工法は,材料の面で強い地域性があった.一口にマサといっても,採取する土地によって組成や粒度が異なる.また,マサが得られない場所では,適当な粘土や火山灰土などを使う場合があったようである・そのような材料の差異や工事条件の違いに応じて,施工の方法も変えていく必要がある.愛知県土木部や名古屋港管理組合のように,人造石工法を標準化しようとする試みもあったが,総じてこのたたき技術に経験的な性格が濃かったのは,材料面の地域差や不均一性におもな理由があったと思われる,したがってその内容は,指揮をとる練梁たちの「秘伝」とされることも多かった.服部長七の場合のように,服部組という大きな組織を持ち,大工事をつぎつぎにこなしていても,なおそこには属入的な性格が濃厚であった, たたき材料の配合比率については,残っている記録が極めて少ないが,各種の史料・文献から,つぎのような重量比の例を拾うことができる. O宇品築港工事(明治!7~22年) 石灰18%,種土82% O神野新田干拓工事(明治26~28年) 石灰約30%,種土約70% ○明治用水頭首工工事(明治34年) 石灰1 対 種土!0 0名古屋港管理組合による配合例 石灰1 対 種土10~12 以上の例における種土には,すべてマサが用いられている・人造石の技法が安定してきた明治後期には,石灰とマサの配合比率は,ほぽ!対10のあたりに落着いていることが読みとれるだろう. 入造石の施工に当たっては,原土の選定と精選(粒度調整など),石灰との配合比率と混合(空練り),加える水の量と練り合わせなど,多くの留意点があるが,最も重要なコツは練り土の打ち込みにあった。練り土 きだこを少しずつ足しては締め木でたたき締め,さらに木蛸 つきぼうや椙棒で打ち締めることを繰り返して,総体的によく安全 工学伝統の天然セメント“たたき”493圧縮した.この打ち込みの入念さは,伝統的なたたきの経験に基づいているのだが,きわめて日本的な特徴を感じさせるものであり,当然ながら多くの人手を必要とした, このように人手のかかることが,やがてコンクリートに押されていく1つの理由にもなった,最近になって,たたきを復元しようとする試みが見られるが,その最大のネックも,この人海戦術にあるようだ.
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