7/25/2026

テンセグリティの構造原理  第五章 神聖幾何学におけるプラトン立体の役割

前章では、量子幾何学(虚空の幾何学)を通じた平面および立体における構造的側面を考察してきました。

本章からは、ユークリッド幾何学の根幹をなす「プラトン立体」を取り上げ、これを量子幾何学の視座によって再構築していきます。


【図13:プラトン立体(正多面体)】
 

 なぜ今、改めてプラトン立体から始めるのか。

 それは1980年代以降に再評価された「神聖幾何学」により、これらの立体が自然界の造形や宇宙の法則と深く結びついていることが明かされてきたからです。

さらに私自身、量子のミクロな世界とこれらの正多面体の間には、構造上の深い連動性が存在すると見ているためです。

 従来のユークリッド幾何学という枠組みだけでは捉えきれなかったプラトン立体の真の性質も、量子幾何学の視点を導入することで、まったく新しい構造的発見へとつながっていきます。 

 本格的な解析に入る前に、まずはプラトン立体を単なる「無機質な図形」から解き放ち、その本質的な役割を浮き彫りにしてきた神聖幾何学の歩みについて整理しておきましょう。


【神聖幾何学におけるプラトン立体の役割】

神聖幾何学(Sacred Geometry)とは、自然界や宇宙に存在するパターンや比率(黄金比など)に、普遍的な意味や法則を見出す思考体系です。雪の結晶の結晶構造、貝殻の描く対数螺旋、植物の花弁の配置に至るまで、ミクロからマクロにわたる万物が特定の幾何学的法則に従っています。


【図14:19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したドイツの生物学者であり、哲学者、画家でもあるエルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel)によって描かれた放散虫の細密画】


 その中においてプラトン立体は、単なる幾何学上の多面体にとどまらず、「宇宙や物質を形成するための基礎的な概念設計図」として位置づけられています。

 私がプラトン立体を本格的に研究し始めた1996年当時、日本において「神聖幾何学」という分野はまだ一般的ではありませんでした。当時の建築・デザインや多面体幾何学の領域では、バックミンスター・フラーの構造理論や純粋哲学の文脈で語られることが多く、「神聖幾何学」という言葉は限られた研究者や思想家の間でのみ用いられていたのです。

 この概念が一般層へ広く浸透していく背景には、次のような歴史的タイムラインが存在します。 

 【神聖幾何学の広がりとタイムライン 】

 ・1982年(英語圏での萌芽): 人類学者ロバート・ローラー(Robert Lawlor)による著書『Sacred Geometry: Philosophy and Practice』が刊行され、古代建築や自然界の幾何学と精神世界を結びつける基礎が築かれました。

 ・1999年(世界的な概念の確立): ドランヴァロ・メルキゼデクが『The Ancient Secret of the Flower of Life』を出版。プラトン立体やメタトロン・キューブを含む体系が「フラワー・オブ・ライフ(生命の花)」の図形と共に世界中へ一気に広まりました。

 ・2001年末(日本への本格的伝播): 同著の邦訳『フラワー・オブ・ライフ — 古代神聖幾何学の秘密』が刊行され、インターネットの普及や2000年代初頭のパラダイムシフトと相まって、日本でも「神聖幾何学」の存在が定着していきました。

 私が1996年に向き合っていたプラトン立体は、こうした後のブームによるフィルターがかかっていない、純粋な数学的・造形的な幾何学としての姿でした。しかし流行に先駆けてその構造の美しさと本質に向き合っていたからこそ、それを後に「実際の建築構造」へと昇華させることができたのだと確信しています。

 私は1990年代後半、現在の「量子幾何学」の着想となるある種の基本構造に気づき、そこに潜む規則性と法則性の解析を続けていました。2000年前後にはその一連の構造メカニズムを解明し、2004年には幾何学的システム※7として特許出願・公開に至りました。 さらに2008年には、このシステムを応用したドーム型構造体※8を発明・公開しています。これらの特許文献の構造解析を紐解けば、そこにはテンセグリティー構造の真の原理や、かつてレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた格子スケッチのドーム化(多軸体構造)※9の解が明確に含まれているのです。



※7 中空状構造体の形成方法 

 https://patents.google.com/patent/JP2006286590A/ja

※8 ドーム型構造体 

 https://patents.google.com/patent/JP2010007289A/ja

※9 ダヴィンチドーム 

レオナルド・ダ・ヴィンチのアイデアスケッチに基づく、部材同士が互いに支え合う相持ち構造(レシプロカルフレーム)を利用した自己支持型の幾何学ドーム。特別な金具を使わず、短い木材などの組み合わせで大きな空間を架け渡せるのが特徴。

7/20/2026

テンセグリティの構造原理  第四章 組紐文様と量子幾何学

古代文様における渦巻き紋や紐組み文様(組紐・結び)は、世界各地の先史時代から共通してみられる意匠です。これらは単なる装飾にとどまらず、自然への畏怖や命の再生、永遠の繋がりといった深い精神性が込められた普遍的なシンボルといえます。

幾何学が未発達、あるいはそれを必要としなかった時代を生きた古代の人々において、空間を把握する意識は現代人のような静的・三次元的なものとは異なっていました。彼らは自然界の形態をつかさどる生命エネルギーの流れを直感的に捉え、その動的な流れを意識の中で再構成(文様化)することで、あらゆる生活の場に刻み込んできたのです(図7参照)。


【図7:木製スプーン(ラブスプーン):ウェールズ地方などの伝統工芸で、1本の木からケルトノット(結び目)を緻密に彫り出した木製スプーン。かつては男性が愛する女性に贈る「婚約の証」という生活に根ざした用具】

興味深いことに、それらの文様の中には、現代物理学が捉えるクォークの流れを予感させるような構造が見受けられます。

顕著な例が、図8に示すケルト文様のトリニティ(※3)です。これはクォークの不可分な流れを端的に示唆するもので、三つのクォークの流れがひとつに繋がった連続パターンを形成し、中央には三角形の結び目を生み出しています。


図8:ケルト文様に見られるトリニティー

現代の量子力学において、クォークはしばしば点状の粒子として観測・記述されます。しかし古代人の直感に従えば、本来はすべてが途切れることなくひとつに繋がった全体的な流動そのものなのかもしれません。ケルト文様では、その循環するエネルギーがどこまでも満たそうとする途切れのない装飾として表現されているのです。

現在の観測技術では、クォーク同士が結合して物質化(局所化)した状態のみを捕らえているに過ぎず、それは全体像のほんの一側面に過ぎない可能性があります。

本著の目的は技術的予測ではなく、幾何学的な考察を通して量子と構造体との相似関係に迫ることにあります。

改めて図8のトリニティが造形する虚空間に目を向けると、中央から外側の三方へ広がる空間の中に、小さな「四つ組の結び目」が表れていることが分かります。この結び目の生成もまた、クォークによる物質形成のプロセスと重なります。クォークは2個以上(あるいは3個)の結合によってハドロン(素粒子複合体)を形成しますが、結合の組み合わせに応じて多様な物質形態へと結晶化していきます。

これと酷似した日本の伝統意匠が、図9に示す「水引」です。水引は7世紀頃に大陸から伝わった組紐を、日本独自の感性によって繊細に発展させたものです。数ある結びの様式の中でも、ここでは「抱きあわじ」を取り上げます。

【図9:水引「抱きあわじ」】

この「抱きあわじ」には、中央の四つ組の虚空間のほか、その両側に計六つの三つ組の虚空間が形成されています。がっちりと結び合わされた赤と青の紐は、両端を引き絞ることで交差部の虚空間がより一層絞られ、極めて強固な結び目を生み出します。

この現象は、あたかもクォークが強い力(グルーオン)によって引き寄せられ、強く絞られた虚空間に『渦』を発生させる物理挙動と美しくシンクロしています。さらにこの組紐を連続展開すると、図10のように「抱きあわじ」が帯状に連なる動的な構造体へと発展します。


【図10:「抱きあわじ」の帯(連続体)】

ここまでは平面的な組紐パターンを考察してきましたが、自然界の動態は決して平面のみに収まるものではありません。一見平面的に見える現象も、ある視点における投影に過ぎないのです。例えば花弁の開花過程も、蕾という立体空間が水平方向へ変容した動的立体として幾何学的に把握できます。

では、組紐が立体化するとはどのような状態を意味するのでしょうか。 ここではまず従来の幾何学に基づき、「面によって囲まれた空間」として捉えておきます。後の章で詳しく展開していきますが、立体とは単に直交する3軸(3D)で構成されるものに限らず、多数の座標軸が交錯する多軸的な構造として捉え直すことができます。

それでは、立体を形成する組紐構造を見ていきましょう。 最も基本的な幾何学形態である正多面体(※4)とその派生形体をベースにすることで、紐組みの規則性が明瞭に立ち現れます。

図11は、正十二面体および立方八面体を骨格として形成された球状の紐組みです。立体の各稜線に沿って紐を通し、相互に織り込むことで成り立っています。ここで興味深いのは、立体の頂点に相当する位置が、紐が交差して絞られた「点(虚空間)」として立ち現れる点です。

【図11:組紐の幾何分析】

組紐が立体へと展開されることで、クォーク線に見立てた紐の密度が高まり、交差部に生まれる虚空間が球体の中心へと凝縮されるイメージが描かれます。 平面上の交差であれば虚空間には2次元的な『渦』が認識されますが、これが立体構造へ移行すると、右回りと左回りの渦が相互に絡み合いながら、立体の中心に向かって落ち込んでいく動的なイメージへと進化します。

このイメージをより明確にするため、さらに面と稜線の数を増やして球体に近づけ、内部の虚空間を大きく見せた事例を検討してみましょう。素材を紐から藤(ラタン)の帯に変えた構造体を取り上げます。

タイの伝統球技で用いられる「タクローボール」です。 このボールは、正十二面体から派生する半正多面体(アルキメデス立体の一つである二十・十二面体)の幾何構造をベースに作られています。この多面体は正五角形と正三角形の面から構成され、正十二面体の頂点を切り落として球体に近づけた美しい相関性を持ちます。

このような多面体格子をベースとすることで、編み込まれた帯の隙間に豊かな虚空間が立ち現れ、内部の構造が鮮明に可視化されます。

一本の帯を追うと、五角形の虚空間の周囲を右回りに形成する一方で、隣接する三角形側では左回りに交差していきます。 この帯を『クォークの軌跡』と仮定したとき、その流れは単一のベクトルではなく、双方向の循環流として存在していることが読み取れます。古典物理的には同等な双方向の流れは相殺して静止するように見えますが、五角形と三角形という非対称な面構造によって不均衡(差)が生じます。この差異こそが、構造体に特有の振動数や周波数、あるいは揺らぎを生み出す源泉ではないでしょうか。

超弦理論(スーパーストリング理論)では、物質の最小単位(素粒子)を「点」ではなく、振動する極小の「1次元の弦(ループ)」として定義します。ベースとなる多面体の次数(面数)を増やしていくにつれ、『クォークの帯』の絡み合いはさらに高度化し、まさしく『量子もつれ』(※5)の非局所的なメカニズムと構造的にシンクロしていくと考えられます。


【図12:タクローボールと二十・十二面体の対比】

本章では、伝統工芸や自然素材を用いた物理的造形を通して、量子幾何学(虚空の幾何学)の探求を行ってきました。そして、可視できる幾何形態とミクロな量子論との美しい対応関係を確認しました。

ここで扱った基本モデル(正多面体)は、古代ギリシャから受け継がれてきたプラトン立体(※4)であり、神聖幾何学(※6)の根幹をなす要素です。

次章では、物理的な実体に依拠する段階を超え、これら伝統的な幾何学モデルそのものを「量子幾何学のルール」に基づいて変換・再構成し、新たな幾何構造の立ち上げを試みます。


【注釈】
※3 ケルト文様のトリニティ 
3つの尖点を持つ結び目文様。ケルトのノットワークを代表するデザインであり、「父・子・聖霊の三位一体」や「生・死・再生」、「過去・現在・未来」など、多様な「3」の概念を象徴する。
※4 プラトン立体 
正多面体は古代ギリシャの哲学者プラトンにちなみ「プラトン立体」と呼ばれる。古代ギリシャでは、この完全な対称性を持つ5つの立体が宇宙の構成要素(火・土・空気・水・天界)を表すとされた。

 ※5 「量子もつれ」の基本メカニズム

  • 重ね合わせ: 観測前の量子(電子や光子など)は、右回り/左回りなどの複数の状態が確率的に重なり合っている。

  • 瞬時の連動: もつれ状態にあるペア(AとB)では、「Aが右ならBは左」という決定的相関が保持される。

  • 観測による確定: どれほど距離が離れていても、一方の観測によって状態が確定した瞬間に、もう一方の状態も瞬時に確定する。

※6 神聖幾何学 

自然界や宇宙の構造に見られる数学的比率やパターンを、万物の根源的な秩序や霊的象徴として捉える概念。古代より建築や宗教美術の調和の基盤として用いられてきた。




7/12/2026

テンセグリティの構造原理  第三章 量子幾何学(虚空の幾何学)

 幾何学とは「空間をどのように把握するか」を探求する学問です。空間の把握のしかたによって、私たちの世界観や宇宙観も大きく異なってきます。

では、「なぜユークリッド幾何学では量子を説明できないのでしょうか?」

従来の幾何学は、私たちが日常で目にする「物質」の世界を捉えるには極めて都合が良く、そこで完結していました。科学の世界観も同様です。 しかし現代では、量子力学(※1)の発展によって物質の最小単位の成り立ちまでが解明され、その知見は宇宙の成り立ちにまで波及しています。私たちの世界観は、ミクロからマクロな宇宙へと大きく広がりました。

当然、今後さらなる解明が進む中で、「そこに現れる形や動き、そして空間のありようはどうなっているのか」という空間の概念やイメージも従来の枠組みを超えて変化していきます。それに伴い、新たな空間把握にふさわしい幾何学が必要となってくるでしょう。 これから語る幾何学は、まさにその要請に応えるために提示されたものです。

まず、空間把握に関わる根源的な課題に触れておかなければなりません。それは、量子力学における「無(虚空)の空間」をどのように解釈し、定義し、把握するかという点にかかっています。

ユークリッド幾何学は、まず「単独で存在する点」を前提として成り立っています。 しかし、ミクロな量子の世界において、最も小さな素粒子であるクォーク(※1)は、単独の「点」として観測されることはありません。言い換えれば、単独では存在し得ないのです。 その理由は、図5の陰陽図が示唆するように、互いに引き寄せ合う相手が存在して初めて形態や関係性が成り立つからです。 したがって、2つあるいは3つの粒子が結合して初めて私たちの前に姿を現します。そして、その結合を生み出す根本的な要因は、何もないように見える「空間」そのものから来ているのです。


【図5:陰陽図(太極図)古代中国の陰陽思想や宇宙観における「陰」と「陽」のバランスと循環を表したシンボルマーク】

 したがって、これを幾何学として成り立たせるには、「クォーク同士が相互に依存して初めて構成要素が定義され、その中心にある『無』の空間こそが強大なエネルギーを宿す」という概念を組み込んだ、新たな幾何学モデルが必要となるわけです。

この新たな幾何学は、従来の幾何学とはまったく異なるルールで展開していきます。

【図6:ユークリッド幾何学VS量子幾何学の根源的比較】

要素ユークリッド幾何学(従来モデル)量子幾何学:虚空の幾何学(提案モデル)
基本単位静的な点 (位置の自己完結)動的な交差(3つのループの交差による出現)
結合・構造2点を結ぶ 直線相互に依存し流動する クォーク線(結合)
中心領域境界に囲まれた 面(二次元の広がり)力を宿しハドロンを形成する 『無』の空間(虚空の渦)

以下、図6を参照しながら具体的に述べていきましょう。

図6(左)では、従来の幾何学でいうところの線が3本存在し、ループを描きながら中心で交差しています。その交差する場所は「交点」となって「点」が存在し、中央に囲まれた三角形の領域は「面(平面)」と認識されます。これが従来のルールです。

一方、図6(右)は量子力学の視点を取り入れた幾何学的解釈です。ここではクォークの粒子が織りなすループが交差しています。クォークは単独では視覚化されず、最小2〜3個の粒子が「グルーオン」と名付けられた強い力で引き寄せ合うことで結合し、初めて「ハドロン」という物質を形作ります。 そこで本幾何学では、視覚化できる最小単位の構成要素としてクォークを捉え、それを線状もしくは軸状に認識したものを「クォーク線」または「クォーク軸」と呼びます。仮にこの線が太くなって立体状に変容するならば、それを「クォーク体」と定義し、これを【第1のルール】とします。

従来の幾何学では、形をなす源は「点」であり、それが線になり、面になり、立体となって形を現していました。しかし、新たな幾何学ではこの「点」という物質性の概念そのものがなくなります。それにより、クォークが交差する場所に「点」が生じることはなく、交点は存在しません。また、クォークの交差は最小3本で構成します。これが【第2のルール】となります。

さらに、交差する中心領域は「点」が存在しない、すなわちクォーク以外の視覚で捉えることができない『虚空』(※2)の空間となります。これが【第3のルール】です。

【第4のルール】として、各クォークの流れは必ず互い違いに交差して格子構造(編み込み構造)を形成し、互いに引き寄せ合うという規則性があります。

【第5のルール】として、クォークが交差した箇所には目に見えない(視覚化されない)『対流』が生じます。これは、交差する領域に強い力がかかって互いに引き寄せ合っているためです。
分かりやすい例として、3本のクォークが結合する中心には、目には捉えられない
『渦』が生じます。あるいは、もともと『虚空』の空間に『渦』が存在するからこそ、クォークがそこに引き寄せられるのかもしれません。いずれにせよ、『虚空』である領域に流れが生じるため、これを『虚空の渦』と名付けて認識します。

なお、『虚空』となった空間においては、クォーク線が3本以上交差して立体状の渦を形成することがあります。その状態については、第6章「プラトン立体を虚空の幾何学で再構築する」の項で述べることにしましょう。

以下、量子幾何学における「5つのルール」を整理しておきます。

  1. 構成要素の定義:クォークを本幾何学の構成要素とし、線状・軸状に捉えたものを「クォーク線」または「クォーク軸」と呼ぶ。線が太くなり立体状に変容したものは「クォーク体」と呼ぶ。

  2. 交点の不在と最小構成:クォークが交差する箇所で互いに交わって一体化(一点に収束)することはない。また、交差は最小3本のクォークで構成する。

  3. 虚空の定義:クォーク以外の領域を『虚空』(※2)の空間とみなす。

  4. 互い違いの格子構造:各クォークの流れは、必ず互い違いに交差して格子構造を形成し、相互に引き寄せ合う規則性を有する。

  5. 対流と虚空の渦:クォークが交差した箇所には目に見えない『対流』が生じ、複数のクォークが交差する中心領域には『虚空の渦』が生じる。



【注釈】

※1 クォークと量子力学 

量子力学において、物質を形作る最小単位の素粒子を「クォーク」と呼びます。クォークはそれ以上分割できない「素粒子」であり、宇宙に存在するすべての物質(人間や身の回りのものを含め)の根源となっています。また、クォークは単独で存在できず、必ず2〜3個が結びついて陽子や中性子などの複合粒子(ハドロン)を形成します。

※2 虚空(こくう)

「虚空」とは、単に何もない空間という意味にとどまらず、「何の妨げもなく、すべてのものが存在する背景となる場所」を意味します(サンスクリット語「アーカーシャ(Ākāśa)」の漢訳)。 現代の量子力学においても、クォークより小さな真空のミクロ構造は完全には解明されていません。本幾何学では、この無でありながらエネルギーを宿す領域を、古代哲学の「エーテル」、東洋思想の「気」、仏教の「虚空」に通ずる概念として捉えています。


7/05/2026

テンセグリティの構造原理  第二章 有から無へ 

 ユークリッド幾何学では「点は限りなく小さくても存在する」と仮定し、その上に線や面・立体を形成し、まるでバベルの塔を構築するかの如く不滅の理論が積み重ねられてきました。 その歴史は約2千年も続いてきたため、それが絶対的な真理だと信じられてきたのです。

ところが約2百年前、その常識が覆されました。いくつかの矛盾点が発見され、絶対的真理としては限界があることが発覚したのです。かつては神の領域にまで達しているとされた巨塔が、実は雲の上で建設が止まっており、そこから先はどれだけ積み上げようとしても崩れ落ちるばかりだったのです。

【図2: タロットカードの「16番:塔(The Tower)」は、崩れ落ちる塔を描いた、突然の崩壊、価値観の激変、そして目覚めを象徴するカードです。ショッキングな出来事を暗示しますが、それは新しい創造のための「破壊と再構築」というプロセスでもある】


これらの矛盾点は、その後の研究により「曲がった空間(球面上や鞍型)」における図形の性質として論理的に記述され、「非ユークリッド幾何学」と呼ばれるようになりました。 そのうちの「球面幾何学」と呼ばれる分野から、現代の私たちにも分かる簡単な例を示してみましょう。

平面上において、三角形の内角の和は180度です。ところが、人類が飛行機を発明し、地球規模で長距離飛行をする時代になると、これが問題になってきました。 例えば、東京・オークランド・ホノルルを地球の表面上で結んだ場合、平面の地図上よりも地球儀上の三角形の内角の方が大きくなり、内角の和が180度を超えてしまうのです。

【図3:東京‐ホノルル‐オークランドを結ぶ地球上の三角形】


球面上では、三角形の面積が大きくなるほど内角が広がっていきます。その結果、目的地に向けて平面上の角度のまま飛行機を飛ばすと、到着地点が大きくずれてしまうのです。

過去200年の間に先人たちが見つけ出した矛盾点は、例えて言えば「雲の上に隠れていた塔の上部」でした。 しかし実は、基礎の部分にこそ最大の問題を抱えていたのです。 それこそが、前章で取り上げた核心となる『点』なのです。

従来の幾何学では『点』を「存在するもの」として絶対視していますが、その背景には、古代ギリシャ哲学が「有(存在)」を世界の根源とし、それに反する「無」を論理的な矛盾や思考不可能なものとして徹底的に排除した歴史があります。 哲学者アリストテレスの自然論においては「自然は真空を嫌う」とされ、空間には必ず何らかの物質が充満しているとして「無」の存在を認めませんでした。

この「無」を否定する宇宙観はやがて中世ヨーロッパに継承され、宗教の一部と化していきました。17世紀に至るまで、ヨーロッパで「無」をはじめとする「ゼロ」や「無限」を主張することはキリスト教への冒瀆であり、死刑宣告を意味していたのです。中世ヨーロッパではゼロを「悪魔の数字」とみなしてローマ教皇が使用を禁じ、1600年には宇宙が無限であると主張した修道士ジョルダーノ・ブルーノが、異端の罪で火あぶりの刑に処されたほどです。 したがって、西洋思想史の全体を通じて、「無」が主要なテーマとして深く意識されることはほとんどありませんでした。

このような思想から、「無(無いこと)」よりも「有(有ること)」に重点が置かれるようになったのは自然な流れです。それが物質的な価値を重視する意識を促し、ひいては物質至上主義を生み出したのでしょう。 所有する者と持たざる者との間に分断が生じ、共有よりも個々の「所有」を最優先する考え方に傾斜していったのだと思います。そこでは分かち合う意識は希薄になり、個の所有が強く強調されます。そして所有の独占が始まると競争心が芽生え、勝者と敗者の間で優越感と劣等感が生まれ、嫉妬や妬みといったネガティブな感情が湧き起こります。こうして階層社会(ヒエラルキー)が形成され、その頂点を目指すピラミッド型の社会構造が作られていったのです。 西洋思想に端を発したこの思考形式は世界を席巻し、あらゆる国々がその影響を受けてきました。

一方、東洋における「無」や「空」は、単なる「何もない状態」や「マイナス」「所有しない」といった消極的な意味ではありません。「無」や「空」とは、すべての存在が他のすべての存在とつながり、互いに依存し合っているという「真理」であり、極めて肯定的で根源的な思想へと高められてきました。

しかし今日、仏教や禅宗におけるその解釈は、一般人の日常感覚からかけ離れ、あまりにも抽象的で理解しづらいものとなっています。

そこで本著では、「無」や「空」を幾何学的に解釈し直し、明確なルールとして組み込むことで、図示可能であり、構造として計算できる形として提示していきたいと考えています。 そのためにまずは論理を一旦脇に置き、直感的に『無』のイメージをざっくりと捉えていきましょう。

東洋思想の代表である老荘思想の中には、『無』の本質が見事にとらえられている記述があります。イメージを掴むのに非常にふさわしい内容ですので、以下に抜粋してご紹介します。

●三十本の輻(や=スポーク)がひとつの轂(こしき=車輪の中心で軸を受ける部分)に集まるが、その中心の何もない穴(車軸を通す部分)があるからこそ、車輪としての働き(用)をなすのである。
【図4:轂(こしき=車輪の中心で軸を受ける部分)】

●壁は部屋を作り上げ、支えるが、その間の空間が最も重要である。
●壺は粘土で形造られるが、その中に形成される空間が最も有用である。
●それゆえに形あるものが役に立つのは、何もない無の部分が役割を果たすからである。
●行動とは、無が何かに影響した結果である。
精神の無があらゆる形の源であるのと同じように。

  『道徳経』第11章より抜粋 


『老子』第11章に登場する「車輪」・「壁」・「壺」関する有名な一節は、「目に見えない空虚な空間こそが、実質的な機能(用)を生み出す」という「無用の用」の思想を説いています。

さらに、目に見える形を作り出す「源」についても言及しています。
「行動」とは、目に見えない無形の精神的な領域(意志、思考、潜在意識)が、目に見える現実や他者に何らかの影響を与えて生じる現象です。この原理は、宇宙のあらゆる物理現象や事象が「純粋な可能性(無)」から形を成していく過程と本質的に同じものです。

次章では、従来の幾何学における『点』をどのように『無』へと転換していくか、その際に組み込む新たなルールについて具体的に述べていきたいと思います。