フォルメン線描は主に線で描かれる。装飾として楽しむより、むしろ体験を目的としているからだろう。
ここではフォルメン線描の要素を変化させることで幾何学の話をほぐして説明しようと思う。そう、それによってプラトン立体やそれを成すユークリッド幾何学の矛盾を掘り下げることができるだろう。
前回示した線描の図はほとんど細い紐の線で描かれており、その交差部分は線が交わっているように見える。
しかし実際の線描の、この手の描き方の形式から、線は
交差していることが規則となっている。だからこの線描は途切れないで一筆書きとなっている。
線描を太くした図を示してみよう。この図からケルト民族の文様が見て取れる。
その他の民族の工芸品にも現れているこのパターンには共通点がある。常に紐状の存在が互い違いに交差するのである。
これを考えた民族には平面という概念が育ってはいない。と、言うよりも平面を我々とは異なる方法で見ていたといってもいい。後でゆっくり述べるが、私の発する平面も普通ではない。平面が渦を描いている。それはさておき、彼らはどう平面を捉えていたのだろう。
例えば、四角い平面のみを描いてもらうようにお願いしてみよう。たぶん戸惑いながらこのように描くだろう。
戸惑うのは、四隅の角だ。それ以前に彼らが我々が描くように線で真四角を描くことには抵抗があることをあらかじめ言っおかねばならない。
本来この四隅の紐の輪によってできる交差は、連綿と続く形式の一部であり、彼らにとって四角は独立していない。その様な目的が見当たらないし、彼らは満足はしないだろう。
しかし、あえて描くならばこの様な図となる。四角そのものは、たとえ細い線となっていったとしても、考え方、想像のビジョンとしての四角の四隅は空間が紐にひきつけられて回転している。そして四角形の空間を見てほしい。紐である四つの辺は互いに交差しており、内部空間は左方向へと回転する。
このフォルメン画でユークリッド幾何を端的に説明するならば、ここに描かれている紐を極限まで細くしていったものと捉えて良い。
本来、四角はこのようなフォルメン画で示したような空間になっている、とは言わない。しかし、線で描かれている様に空間が微動だにしないのは直感的に受け入れがたい。ましてや四隅の角は何らかのエネルギーを表わしてもよさそうである。
実際、これが量子力学の世界ならば、物質を成すエネルギーはフォルメン画のように揺らぎを示しているのだろう。
このように見てきた古代の世界観は、自然の造形から受ける印象もそうであるが、自然からえられる材料で編んだり、織ったりする過程で培われたものだ。原初的ではあるが理にかなったエコロジカルな発想で、どの民族にも共通するゆえんである。
では、このフォルメン画を立体で表現していくと、どのようなことが分かってくるのだろうか。
立体と言っても、浮き彫(レリーフ )ではない。レリーフではその裏側まで表現できないからだ。